1 知的障がいと刑事事件について
刑事手続きにおいては知的障がいのある方について特別な定めはありません。そのため、他の事件と同様の捜査が行われ、身体拘束された場合には警察の留置施設に入れられることになります。
また、身体的な障がいとは異なり、知的障がいは一見して分からないこともあります。そのため、警察や検察が障がいについて気づかないまま刑事手続きが進んでしまうこともあり、何の配慮もなされないこともあります。
現在、教育や啓蒙活動によって知的障がいに対する社会の認知は広まりつつありますが、捜査機関の対応は必ずしも十分なものとないえない状況にあります。
2 捜査段階での弁護
知的障がいを持つ方が罪を犯してしまった場合でも、被疑者として警察・検察からの取調べを受けることになります。取調べにおいては誘導的な質問や、暗示的な質問がなされることもあり、嘘の自白調書が作成される恐れが高くあります。また、逮捕勾留され留置施設に入れられている場合、環境の変化から心身に強い不調をきたしてしまうこともあります。
こうした事情については、弁護士を通して捜査機関に対して適切に伝えるとともに、不当な捜査活動に対しては抗議などを申し入れていくことになります。
取り調べ状況についてはビデオによる録音・録画の申し入れを行います。調書が作成された経緯について検証できる状況を整えることで、誘導的・暗示的な取調べ自体を抑制することも期待できます。
また、取り調べの場に弁護士が立ち会うよう求めることも考えられます。現在の警察の取調べにおいて立会いが認められる例は多くありませんが、障がいの特性によっては自分の思っていることを相手にうまく伝えられないこともあります。その場合には弁護士が立ち会って逐一助言が受けられるよう求めていきます。
逮捕・勾留中に治療が必要となった場合には身体拘束を解いたうえで医療機関に入院・通院ができるよう裁判所・検察官に求めていきます。留置施設内では投薬による治療以外ほとんど行われることがなく、ひどい場合には投薬すらなされず放置されてしまいます。
障がいのある家族が岐阜県の刑事事件・少年事件で逮捕されてお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所に一度ご相談ください。ご家族の方の障がいの内容や特性に応じて、必要な弁護活動を実践します。
また、刑事事件においてはスピードのある対応が命となります。弊所ではご依頼から24時間以内に弁護士が逮捕されている方の元へ赴く「初回接見」も行っています。逮捕された直後の状況を把握することで、弁護方針を確定させることができます。
3 裁判段階での弁護
捜査が終結し、起訴された場合にも通常の刑事事件と同じ手続きで裁判は進みます。
本人が身に覚えがない場合には無罪を主張していきます。自白調書が作成されてしまった場合には録画された取り調べ状況を検証するなど、その作成経緯が適切なものであったかどうかを吟味していきます。
また、本人が自分のしたこととして認めている場合であっても、減刑を求めて主張立証を行います。被害について弁償することや十分に反省することは他の事件の場合と同じですが、本人が犯罪事実について十分に理解したうえで行わなければなりません。
障がいの程度によっては幻視、幻聴などの症状を発症していることもあり、周囲の状況を理解できない状態で犯罪に至ってしまうこともあります。障がいの影響によって犯罪に至った場合、責任能力が十分にはなかったという主張を検討します。
知的障がいがあることが直ちに心神喪失や心神耗弱につながるわけではありません。しかし、障がいによって彼・彼女がどのような人生を歩んできたのか、どのような生きづらさがあったのか、という点は刑の重さを決めるうえでも重要な視点になります。
障がいの程度についてはかかりつけ医や家族の方の証言などから立証活動を行うことになります。詳しい病状について裁判の前に鑑定を求めることもあり、医療機関に入院したうえで専門的な検査をすることもあります。
必ず起訴されて刑罰を受けるのか…?
刑事裁判によって罪を科すのではなく、治療が必要だとみられる場合があります。殺人や放火など重大な罪を犯してしまったのに、その行動について本人自身がうまく理解できていない場合等には、刑務所へ送るのではなく(心神喪失の状態にあるため)継続的な医療が必要だと考えられることがあります。
検察官がそのように判断した場合、医療鑑定法(心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律)に基づいた審判が行われます。
この場合、検察官は一度不起訴処分としたうえで、裁判所に対して医療観察法に基づく申し立てを行います。申し立てに対する審判としては入院処遇、通院処遇、もしくは不処遇の決定をします。この審判の中でも弁護士を付添人として付けることができます。入院措置命令がなされてしまった場合、指定入院医療機関に強制的に入院する措置が取られます。法律上、入院期間は定められていませんが、平均して約570日の入院治療が行われます(法務省・厚生労働省/「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律の施行の状況についての検討結果」)。
入院ではなく、家族と生活し地域の医療機関に通院することが治療として適切な場合もあります。どのような治療が必要なのか、付添人である弁護士が家族の方や専門家と話し合いながら裁判所に対して働きかけを行います。
裁判の後の生活はどうしていったらいい?
早い段階から裁判の後の生活についても考えていかなければなりません。あくまで裁判は犯罪事実の有無とそれに対する刑の重さの判断をする場なので、裁判所は、その後の生活について必ずしも面倒を見てくれるわけではありません。
現在では厚生労働省や民間法人が刑事事件に関わった後の、知的障がい者の方の支援を行っています。
地域生活定着支援センター
全国47都道府県に地域生活定着支援センターが設置されています。ここは、刑事事件に関与してしまった知的障がいのある方が、矯正施設(刑務所等)から出た後の生活支援を行っています(出口支援)。出所後の生活場所や職業訓練プログラムへの参加など、再び犯罪に関わらないで生活できるよう、環境調整を支援しています。
また、平成24年度からは刑事裁判が進んでいる段階からの支援も始めています(入口支援)。いくつかの都道府県では「障がい審査委員会」が設置され、刑事裁判においても福祉の観点からどのような刑罰、処分が相応しいのか意見が付されます。
このような支援団体の協力も得ながら社会復帰を目指していくことができます。
障害者相談支援事業所
各市町村が窓口となって知的障がいのある方の生活のマネジメントを行ってくれます。必要な福祉サービスにつなげたり、自立した生活を行うための目標・計画を立てたりといった支援を行います。