1 脱税事件とは
脱税とは、納税義務のある人がその義務を怠って税の一部もしくは全部について納付を逃れることを言います。
所得税、法人税について「偽りその他不正の行為により」税の納付を逃れた場合や税の還付を受けた場合には10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金が科せられ、懲役刑と罰金刑はその両方が課される場合があります。
脱税事件の場合、不正に納付しなかったことや還付を受けたこと自体が犯罪であり、被害者が国でもあるため、罰金の額が大きく定められています。また、納付しなかった額や受け取った額が1000万円を超える場合、罰金額は1000万円以上となることもあります。不正に残った利益について手元に残しておかないためにこのような刑の定めがなされています。
脱税に対しては、刑事罰の他に行政処分として「追徴課税」がなされることがあります。追徴課税とは税の申告をしなかったことや本来の額よりも少なく申告したことへの制裁として課される税金です。
これは、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税の4つがあります。
過少申告加算税
期限内に税の対象となるべき額を少なく申告し後に修正、更正があった場合に課される税。追加で払う税の10%ないし15%が課されます。修正や更正について正当な理由がある場合や自主的に修正をした場合には、加算されないこともあります。
無申告加算税
法律の期限の後に税を申告した場合に課される税。支払うべき税の15%ないし20%が課されます。税務署の調査前に自主的に申告をした場合は5%に軽減されます。また、期限から1か月以内に申告していて期限内に申告する意思があったとみられる場合には加算されないことがありま
す。
不納付加算税
税を納付する期限を過ぎて支払った場合に課される税。追加で納付する税の10%が課されます。
重加算税
上記の3つの税が加算されるような状況であり、税を納付していないことについて仮装・隠ぺいしていた場合に課される税になります。過少申告加算税、不納付加算税が課させる場合については35%、無申告加算税が課される場合については40%の加算税が課されます。
これらの加算税と罰金刑とを合わせると、本来払うべき税金とは別で脱税額の1.4倍以上の額を支払わなければならないことになります。
脱税は不正の方法によって税を逃れる目的をもってすることを言いますので、意図せず税の申告を忘れてしまった場合や、単純な計算ミスについては脱税として刑罰は科されません。
脱税事件について争われた場合、この脱税を行う意図の有無が問題となります。近年テレビなどの影響によって知名度が上がっていますが、脱税については、国税査察官(いわゆるマルサ)などの国税専門官が調査を行います。脱税について疑いがあると見られた場合には検察庁(特捜部等と呼ばれることもあります)に対して告発がなされ、独自の捜査が進行します。この捜査の中で、脱税の認識があったかのような供述調書が作成されてしまった場合、後の裁判で不利な証拠として扱われてしまうことになります。
2 脱税事件の弁護活動
脱税事件についてはいきなりニュースの報道にあるような、大々的な捜査が行われるのではなく、まずは国税庁や税務署による税務調査がなされます。
この段階で内部的に会計について調査を行い税の申告の漏れや不備がないかを確認することが重要です。国税庁、税務署が脱税を疑う前に所得税や法人税の修正申告を行い所定の加算税を支払うことで、刑事事件にまで発展することを防ぐことができます。
自主的に修正の申告をした場合には、加算税が課されない場合や減額を受けられる場合もあります。また、調査が進展してしまうと、査察官による強制捜査(犯則捜査)がなされ、帳簿や会計資料等の重要な書類を押収されてしまいます。
捜査機関による調査を見守るのみではなくこちらも事実確認を行うことで、不利益を最小化することができます。調査の段階から、どのような対応を行うべきか、弁護士も含めた専門家と検討する必要があります。
脱税事件については捜査の過程で多くの資料について押収されてしまい、証拠隠滅が困難な状況であることも多く、在宅のまま捜査が進むこともあります。しかし更に証拠隠滅を行う恐れがあると見られた場合には逮捕、勾留がなされ、最長で23日間の身体拘束を受けてしまいます。身体拘束中は弁護士以外との面会を禁止する処分がなされる可能性もあり、事業や営業に重大な損害が出てしまうことも考えられます。
事業をなされている方が逮捕されてしまった場合には速やかに弁護士と連絡を取るようにしてください。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、岐阜県の刑事事件を専門に取り扱う弁護士が身柄解放活動にも尽力します。身柄解放が認められるべき必要が大きいことを裁判官や検察官に対して説得的に主張します。
検察官に対して告発がなされ、検察官も脱税があると判断した場合には起訴される可能性が高くあります。税は国政の基盤であり、専門的な知識も必要となる事から、他の事件の類型と比べて、起訴猶予処分がなされる割合は低くなっています。
脱税について争う、脱税を行う認識はなかったという場合には、税務調査、犯則調査の段階から適切に対応しなければなりません。直接、「脱税をしているかもしれないと思っていた」という調書が作られていなくても、言葉の端々から脱税の認識があったとの証拠となる場合があります。調査に際しても弁護士とよく相談の上対応しなければなりません。脱税をすることの認識がなければ不起訴処分や無罪判決を得られる可能性があります。
脱税を行ったことについて認める場合には減刑や執行猶予付きの判決を求めることになります。所得税法違反、法人税法違反に対する刑は、ほだつ率(本来納めるべき税金の何割を脱税したのかという割合)、犯行の巧妙さやスキーム、脱税の故意の程度などが考慮されることになります。
明確な被害者のいる犯罪でないため示談を行うことはできませんが、税の修正申告を行って納めるべき税をきちんと納めて反省を示すことができます。
また、事業を行っている方であれば、今後の会計についてきちんと監査する人材を置くことや組織全体の浄化を図る等再犯防止のための措置を行うことで執行猶予つきの判決を目指すことになります。裁判においても脱税に関わった経緯や悪質性が高くない等、被告人に有利な事情があることについて弁護士が説得的に主張・立証していきます。
脱税事件でお困りの方は早期から弁護士に相談しましょう。脱税は複雑な事件であることが多く、対応の選択肢も複数が考えられるため、初めから方針を決めて行動することが最善の結果を目指すためには必要となります。