1 人身事故・死亡事故は何罪になるのか
自動車やバイクを運転しているとき、自分では気を付けているつもりであっても、不注意から他の車や歩行者、自転車と接触して事故を起こしてしまう場合があります。
相手が怪我をしてしまった場合には過失(=不注意のこと)運転致傷罪、死亡してしまった場合は過失運転致死罪として7年以下の懲役もしくは禁錮又は100万円以下の罰金が科せられます。
また、飲酒や薬物の影響によって正常な運転ができない状態で事故を起こし怪我をさせた、死亡させた場合にも刑が加重されています(怪我の場合は12年以下の懲役、死亡の場合は15年以下の懲役)。
更に、飲酒や薬物の影響で事故を起こしたことを隠そうとして事故の後でお酒を飲んだり、水を大量に飲んでアルコールを排出しようとしたりした場合には別途犯罪が成立し12年以下の懲役が科せられます。
飲酒や薬物による影響で正常な運転ができなかった場合のみならず、幻覚や意識を朦朧とさせる等、運転に支障が出る持病があるのに運転をして事故を起こした場合にも飲酒や薬物の影響がある場合と同様に刑が重くなっています。統合失調症や「てんかん」、低血糖症、睡眠障害などが挙げられています。
これらの罪について、運転していた当時、無免許であった場合(免許停止中や免許取り消しの場合も含みます)には、更に刑が重くなっています。
そして、正常な運転が困難な状態で運転し人を死亡させた場合には、最も重い危険運転致死罪として1年以上の懲役が科されます。
このような刑の長さの違いは、事故を引き起こした原因によるものです。事故が生じる危険の大きいものにはより重い刑が定められています。
これらは「自動車の運転により人を致傷させる行為等の処罰に関する法律」によって定められている罪になります。
この法律の制定前には、自動車事故は業務上過失致死傷罪(刑法211条)とされていましたが、飲酒運転や信号無視などの危険な運転による死亡事故に対して業務上過失致死傷罪では刑が軽すぎるとの世論もあり、特別法が制定されています。
交通事故は様々なものがあり怪我の程度も多種多様ですので、過失運転致傷罪については怪我が軽微なものであれば刑を免除すると定められています。
2 人身・死亡事故を起こしてしまった場合にやるべきこと
人身事故を起こしてしまった場合には速やかに警察を呼ばなければなりません。
警察を呼ぶと逮捕されたり処罰されたりするのではないかと思われるかもしれませんが、警察を呼ばないということが新たに刑罰の対象となってしまうことがあります。
まず、相手が怪我をしているのが容易にわかる場合には、「救護義務(救急車や警察に通報するという義務)」、「危険回避義務(後続車などが追突して更に事故がひどくならないよう、三角体を置いたりハザードランプを点灯させておいたりする義務)」が生じます。これに違反した場合1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます。
また、救護義務とは別に、警察官に対して事故の詳細を報告する「報告義務」も生じ、これに違反した場合には3月以下の懲役又は5万円以下の罰金が科されます。
更に、警察官から現場に留まるよう指示を受けていたのにそれに従わないで現場から離れてしまった場合には「滞留義務」違反として5万円以下の罰金が科されます。
このように、一つの事故を起こしただけでも4つの義務が生じ、これらの違反についてはそれぞれ刑罰が科せられます。
これらの違反のみで直ちに実刑判決を言い渡されることは多くありませんが、過失運転致傷罪と合わさって、刑が重くなってしまい実刑判決となってしまう場合もあります。
事故を起こしてしまった場合、怖くなってその場から逃げてしまいたくなることは十分に理解できますが、事故の被害を深刻にしてしまわないためにも警察を呼ぶなどの適切な処置に努めましょう。
事故を起こしてしまった時から弁護士に相談することもできます。一度事故現場から逃げてしまった場合でも、弁護士とその後の対応を相談できます。
岐阜県で人身事故、死亡事故を起こしてしまったことでお困りの方は弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
事故現場から逃げてしまったという場合、身辺を一度整理した上で自首することも選択肢としては考えられます。交通事故について警察は専門の捜査技術を持っています。
慌ててその場から逃げた場合、現場に証拠が残っていることが多く、そのまま逃げ切れるなどという希望は持たないほうがよいでしょう。
弊所では警察に出頭する際に弁護士が付き添う「同行サービス」も実施しています。出頭時になされる取調べにおいて、不利な自白調書が作られてしまわないよう、弁護士が直ちにアドバイスいたします。
3 交通違反点数について
交通事故で人に怪我をさせた場合、死亡させた場合にも交通違反点数が加算されます。スピード違反や無免許運転などの他の交通違反もあった場合には更に多くの点数が加算され、場合によっては過去に違反歴がなくても免許停止や免許取消し処分がなされてしまいます。これは刑事裁判とは別で科されるもので、行政処分として科されるものです。
4 人身事故・死亡事故を起こした場合の弁護
事故を起こしてしまった場合には相手方ときちんと示談することが重要です。相手がなくなってしまった場合は遺族の方への慰謝料は高額になることがありますし、危険運転とみられるような運転行為で死なせてしまった場合、遺族の方の感情は厳しいものとなります。また任意の自動車保険に加入していなかった場合、被害者に対する賠償金の一部しか保険で賄われない場合があります。
そのため示談がうまくまとまらない場合があります。被害者の方と示談がうまくいかなくても誠意をもってのぞまなければなりません。事故を起こしてしまったことをきちんと反省し、二度と事故を起こさないという気持ちをもって相手に謝罪していく必要があります。
また、事故の再発防止に努めなければなりません。場合によっては自主的に免許を返納する手続きを行ったり、車を処分したりすることも考えられます。事故の相手とどうしても示談できない場合の示談金や車の処分で得たお金については交通遺児育英会などに贖罪寄付(反省を示すために行う寄付行為のこと)して反省の意思を示すこともできます。
相手が死亡している交通事故や、危険運転による交通事故の場合には逮捕、勾留がなされる場合もあります。相手のけがの程度が軽微であっても、事故の報告をしないで、その場から立ち去ってしまった場合や飲酒運転を隠そうとするような行為をした場合には逮捕されてしまう場合があります。
逮捕されてしまった場合、最大72時間は家族とも面会することができません。逮捕された場合には直ちに弁護士に連絡を取るよう警察官に求めてください。ご本人に代わってご家族が弁護士を派遣することもできます。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所ではご依頼から24時間以内に弁護士が逮捕されているご本人のもとへ赴く「初回接見」を行っていますので、ご家族やご友人が逮捕されて、お困りの方はご利用ください。
相手のけがが軽微できちんと示談もできている場合であれば不起訴処分となることも見込めますが、他の交通違反があった場合や被害の程度が重大である場合には正式起訴されてしまいます。その場合には執行猶予付きの判決を求めていくこととなります。危険運転致死罪は裁判員裁判対象事件ですので早い段階から弁護士と公判に向けた準備活動を行えているかどうかによって判決も大きく変わることがあります。
事故の内容によっては、過失運転致死傷罪が成立しないとの主張も考えられます。事故の発生について不可能であった場合には無罪となります。歩行者が急に飛び出した場合や被害者の車両に重大な交通違反があった場合などです。
その場合には、取調べの段階で不利な内容の調書が作成されてしまわないようにしなければなりません。どのような内容が自分にとって不利な内容の調書となるのかは弁護士と証拠をよく吟味しなければなりません。言い分が二転三転してしまわないようにするためにも、黙秘権を適切に行使する必要があります。
人身・死亡事故で家族や知人が逮捕・勾留されてお困りの方は岐阜県の刑事事件・少年事件に強い弊所の弁護士にご相談ください。黙秘権など取調べに当たって注意しなければならない点について弁護士が丁寧に説明します。事件の詳細について当事者同士の言い分が食い違っている場合には、ご相談者様の言い分が裁判において主張できるよう証拠を検討し、立証活動に尽力いたします。