覚せい剤取締法違反

1 覚せい剤に対する規制

海上保安庁によると、2016年の一年間で押収された覚せい剤は1300キログラムと、過去最大の量となり、末端価格で言うと919億円相当の覚せい剤が密輸されそうなところで押収されています。

日本では「覚せい剤取締法」によって規制されています。ここでいう「覚せい剤」とは、成分の中に「フエニルアミノプロパン」(アンフェタミン)や「フエニルメチルアミノプロパン」(メタンフェタミン)や、これらの塩類(結晶)、これらと同種の覚せい作用のあるものを含むものを言います。覚せい剤は俗称や隠語で呼ばれることが多く、「スピード」「エス」「アイス」「ガラス」などと呼ばれる場合があります。

覚せい剤に対する規制としては、主に輸出入・所持・使用・製造に対する刑罰が設けられており、その目的が営利目的であるかどうかによって刑の重さが変わってきます。

覚せい剤の密輸入・・・1年以上20年以下の懲役
営利目的の場合・・・無期又は3年以上20年以下の懲役、情状によっては1000万円以下の罰金も追加される

覚せい剤の所持、譲渡、使用、製造・・・10年以下の懲役
営利目的の場合・・・1年以上20年以下の懲役、情状によっては500万円以下の罰金も追加される

覚せい剤の原料の所持、譲渡、使用・・・7年以下の懲役
営利目的の場合・・・10年以下の懲役、情状によっては300万円以下の罰金も追加される

また、覚せい剤を保管する医療機関において厚生労働大臣が指定した管理者以外が管理していた場合や、保管や廃棄の届け出をしなかった場合にも罰則が定められています。

覚せい剤やそれに類似する作用のある薬剤は医療用として用いられることもあり、処方箋などに基づいて適切に使用する場合には犯罪と菜なりません。

これらの罪に対してはいずれも懲役刑が基本となっていますので、罰金刑のみが科されるということはありません。

 

2 覚せい剤の所持や使用を警察が認知したら

覚せい剤に限らず、警察は薬物犯罪に対しては特別な捜査を行うところがあります。

内偵調査やおとり捜査などがその例としてあります。また、覚せい剤の作用によって不審な行動に出ているところを職務質問したり、他の犯罪の取調べを受けている際に覚せい剤の使用を疑われたりすることもあります。

捜査機関が薬物事件について事件を認知すると、ほとんどの事件で逮捕手続きがなされます。薬物は特に証拠隠滅が行われやすく、薬物仲間(共犯者)との接触も疑われるためです。逮捕されてからもほとんどの事件で起訴されるまで勾留が続きます。

家族や知人が覚せい剤犯罪で逮捕されてしまった場合、自分が逮捕されてしまった場合はすぐに弁護士に連絡します。逮捕されてから最大72時間は弁護士以外の人と面会することはできませんし、勾留されてからも裁判所が弁護士以外との面会を禁止する決定をする場合があります。そのため、逮捕後早い段階から弁護士が就いていることで、外部と連絡が取れない不利益を緩和できます。必要な範囲での面会を求めるために、弁護士が裁判所に対して働きかけを行うこともできます。

もしも、覚せい剤犯罪について関与していない場合には取調べにおいて適切に対応しなければなりません。覚せい剤を持っていた人がいた場所に、たまたま居合わせてしまった場合等です。取調べの際に不利な自白調書を作成されてしまった場合、後の裁判で覆すのが難しくなってしまいます。弁護士と接見の上、取調べに際して必要なアドバイスを受ける必要があります。

家族や知り合いが覚せい剤取締法違反で逮捕されてしまった場合、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。岐阜県の薬物事件について経験がある弁護士が、ご依頼から最短当日に接見に赴きます。刑事手続きではスピードが命となりますのですぐにご連絡ください。

 

3 覚せい剤事件の裁判とその後

覚せい剤取締法違反で起訴されてしまった場合でも、覚せい剤そのものの営利所や密輸ではない場合、保釈を請求することができます。起訴された時点では、20日近い身体拘束が続いているため、裁判の前に保釈されることで、元の会社や学校に戻りいち早く生活の立て直しを目指すことができます。繰り返し使用してしまう場合には、保釈後から治療など再犯の防止に向けた努力を始めることもできます。

起訴後、すぐに保釈の手続きを進められるよう、弁護士に相談しておくほうがよいでしょう。

薬物事件については明確な被害者がいない犯罪であるため、他の事件のような示談を行うことができません。そのため、どうして薬物に手を出してしまったのかというところから内省して、しっかりと反省する必要があります。誰にも迷惑をかけていないから問題ない等、罪の意識をしっかり持たなければ、重い実刑判決を受けてしまうのみならず、再び薬物に手を出してしまうことにもつながりかねません。

覚せい剤の単純な所持や一回きりの自己使用は、前科がない場合は大半が執行猶予付きの判決となります。しかし、覚せい剤事件は再犯率が60%以上(平成26年/厚生労働省「薬物乱用の現状と対策」より)と極めて高く、再犯の場合の刑は段階的に重いものになっていきます。執行猶予が取り消された場合は、長期間刑務所に入らなければならない場合もあります。執行猶予付きの身である場合と、長期間刑務所に入っていた身では、更生のために頼れる人も変わってきてしまいます。

一方、営利目的の譲渡や所持であった場合は、初犯であってもほとんどが実刑判決となっています。違法に覚せい剤を社会に広めている点が厳しく非難されてしまうからです。その場合でもきちんと罪の自覚を持って反省することが重要です。組織的な犯罪の場合、共犯者についても警察に情報提供することが、その後の薬物との関わりを絶つ上でも大切になります。実刑判決が見込まれる場合であっても、裁判の後のことも含めて弁護士とよく相談していきましょう。

再犯の場合でも、所持使用した覚せい剤の量にもよりますが、特別法により刑の一部について執行猶予を受けられる場合があります。これは、薬物犯罪の再犯率が高い一方、薬物事件を起こしてしまう原因を取り除いて再犯を防止するためには、刑務所の中よりも社会の中で更生する方が望ましい場合もあることから定められているものです。

再犯の薬物事件であってもどのような弁護活動が適しているのかは事件によって異なります。弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では岐阜県の、薬物事件弁護の経験豊富な弁護士が、弁護活動を行います。覚せい剤取締法違反でお困りの方は一度ご相談ください。

…薬を止められない、犯罪を繰り返してしまうのはどうしたらいい?

覚せい剤は、脳に作用して覚醒作用や快をもたらすため、繰り返してしまう傾向が強い犯罪です。実際に薬物を絶とうとする場合には困難が伴います。まずは、自分で薬物との関わりを絶とうという意思を持つことと、適切な周りの人に助けを求めることが重要です。

薬物の持っているということ自体が犯罪であること、またその薬物が体や精神に与える影響について十分自覚していることが、再犯防止のための第一歩と言えます。

そして、適切な人に助け、支えを求めることが必要です。薬物に手を出してしまう人は、様々なことを一人で抱え込んでしまったために薬物に頼ろうとしてしまうという人もいます。一人で立ち直ろうとするのではなく、周りにも頼ることが大切です。現在では、ダルクのように薬物依存症の方で作られる自助グループや、薬物依存を精神症状と考えて治療を行う医療機関もあります。執行猶予付き判決において保護観察がついた場合には専門のプログラムが組まれている場合もあります。これらをきちんと利用することで、周りの人の助けを得ることができます。

また、家族の支えも重要です。刑事手続きが一通り終結すると、病院へ入院する場合等ではない限り、日常生活の多くを家族と過ごすことになります。家族との関わりを持って生活できることが、薬物に頼らないで生活していくための足掛かりにもなります。

…司法取引が日本でも始まるの?

平成27年8月に刑事訴訟法の一部が改正され、「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意」の運用が始まっています。

これは、重大犯罪や薬物事件、国際的な事件について、取調べを受けている被疑者や、起訴された被告人が検察官との間で、
①被疑者が他の者の犯罪(多くは共犯者であると思われます。)について警察に対して供述したり法廷で証言したりするのと引き換えに、
②検察官は、その被疑者に対して起訴しなかったり罰金刑や執行猶予のみが言い渡される手続きにしたりすることを約束することをいいます。

アメリカなどの司法取引と似ていますが、アメリカの司法取引は自分の犯罪を認めることと引き換えに有利な処分をすることが多いのに対して、日本の場合は「他人の犯罪」について情報提供を行うという点で異なっています。また、対象事件として「死刑又は無期の懲役」が定められている罪については対象となりません。そのため、覚せい剤の営利目的密輸罪については、この制度は適用されないこととなります。

合意できる内容として、検察官がする行為は、起訴をしないこと、起訴の取消し、特定の求刑をすること等があります。このうち、検察官が合意に反した場合には、裁判所はこれを強制することができますが、特定の求刑をするとの部分については検察官に特定できません。また、検察官がした求刑通りに裁判所が判決を言い渡すとも限らない建前になっています。そして、この合意について被疑者、被告人から合意を求めることは法律上できないつくりになっています。

 

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