麻薬及び向精神薬取締法違反

1 規制の対象

麻薬及び向精神薬取締法(以下では麻薬取締法と表記します)が規制の対象としている薬物は、「麻薬」や「アヘン」、「けしがら(麻薬を抽出することができる『けし』の部分)」、「向精神薬」等です。

ここで「麻薬」については麻薬取締法の別表に列記されており、モルヒネやコカイン、ヘロインなど74の成分が挙げられており、これらの他、列記されたものと同種の害がある成分を含むものや政令で挙げられたものも「麻薬」に当たるとされています。MDMA、メチロン、マジックマッシュルームなどが麻薬とされています。

また、「向精神薬」についても別表があり、ジアゼパム、ニトラゼパムなど10の成分が挙げられており、それと同種の有害作用のある成分が含むものも「向精神薬」に当たるとされています。向精神薬には、厚生労働大臣が指定する区分によって「第一種」「第二種」「第三種」とわかれ、取り扱いが異なる場合があります。

これらの麻薬については厚生労働大臣の許可がなければ、向精神薬については厚生労働大臣ないし都道府県知事の免許がない限り輸出入したり製造、保管、所持、譲渡、使用等したりできません。麻薬や向精神薬を許可なく所持、使用していた場合には、まず、何を所持、使用していたのかという点と営利目的で所持していたかという点で適用される条文が変わってきます。


ジアセチルモルヒネ等の輸出入、製造・・・1年以上の懲役
営利目的の場合・・・無期又は3年以上の懲役 これに1000万円以下の罰金が加えられることもある

ジアセチルモルヒネ等の小分け、譲渡、所持、使用・・・10年以下の懲役
営利目的の場合・・・1年以上の懲役 これに500万円以下の罰金が加えられることもある

向精神薬の輸出入、製造、小分け・・・5年以下の懲役
営利目的の場合・・・7年以下の懲役 これに200万円以下の罰金が加えられることもある

なお、向精神薬については麻薬の場合と異なり、譲渡目的の所持について罰せられます。単純な所持と使用については刑罰の対象とはなっていません。向精神薬は医療機関によって処方されるもので、一般の人が治療のために持っていたり使ったりすることもあるためです。その分、処方箋を偽造した場合には麻薬取締法違反となります。

一部の麻薬は医療において鎮痛・鎮静剤として有用性が認められており、処方されることがあります。しかし、モルヒネ等の抑制作用からくる多幸感や、コカイン等の興奮作用を求めて乱用に至ってしまうことがあります。

麻薬は日々様々な種類の麻薬が開発されているため、法律による規制が追い付かず、「いたちごっこ」のような状態になっています。そのため、厚生労働省が通達で麻薬取締法として規制の対象とする薬物を随時更新しているという現状にあります。麻薬や向精神薬は、幻覚や幻聴と言った神経障害を引き起こすこともあります。また依存性が高く、薬の効果が切れたことによっても心身の不調が表れてしまいます。こうした神経障害から傷害や強盗などの重大犯罪をしまう可能性もあり、大変危険なものと考えられています。

 

2 麻薬取締法違反で捕まったら

麻薬取締法違反で逮捕される多くは、現行犯逮捕です。使用により神経障害をきたしているところを職務質問により発覚する場合、他の犯罪で逮捕された後に薬物の使用が疑われた場合、内偵調査などにより犯行が発覚した場合などがあります。

こうした薬物事件については、証拠の隠滅のおそれや、共犯者との関係が疑われるため、逮捕後も最大20日間の勾留が引き続き行われます。

逮捕後の最大72時間は弁護士以外との連絡はできませんし、勾留された場合とも弁護士以外との面会が制限される可能性が高いです。逮捕された場合にはすぐに弁護士と接見してその後の見通しについて相談しましょう。

勾留がなされた場合でも裁判所に対して弁護士から不服を申し立てることができます。早期から身柄を解放されて再犯防止のための治療を受けることが後の処分でも有利に取り扱われることがあります。

たまたま麻薬捜査の場に居合わせてしまった場合や、麻薬等と知らずに所持していた場合には無罪を主張することになりますが、初めの取調べの時点から適切に対処しなければなりません。長期に渡る取調べで不利な調書が作成されてしまうと、あとの裁判でそれを否定するのは困難な場合があります。不当な取調べや長期に渡る拘束に対しては弁護士を通して捜査機関に対しても抗議しなければなりません。

逮捕時や、その後の捜査活動の中で違法な捜査がある時は、それにより得られた証拠が否定される場合があります。違法な捜査によって不正確な証拠が作成されていないか、弁護士が綿密に調査して無罪を主張していきます。

麻薬取締法違反では検察官が証拠を十分に収集できた場合は、正式裁判として起訴されます。薬物事件は被害者のいない犯罪とされており、示談や弁償によって不起訴処分を得ることが難しい犯罪になっています。

単純な麻薬の初めての使用の場合であれば執行猶予付きの判決の見込みもありますが、執行猶予中の再犯や営利目的の所持や譲渡の場合には初犯であっても実刑判決となる可能性が高くあります。その場合であってもきちんと反省して、弁護士や家族の協力を得て、薬物との関わりをたてるような環境を整えていくことが、判決でも有利な事情になりますし、その後の再犯の防止にも役立つこととなります。

…薬を止められない、犯罪を繰り返してしまうのはどうしたらいい?

麻薬は、依存性が強く、また薬に対する耐性も付きやすいため、使用量もどんどん増加していく傾向にある犯罪です。実際に薬物を止めようとすると、心身に強い不調が現れることもあります。

まずは、自分で薬物との関わりを絶とうという意思を持つことと、適切な周りの人に助けを求めることが重要です。

薬物が体や精神に与える危険について十分知ることが、再犯防止のための第一歩と言えます。そして、適切な人に助け、支えを求めることが必要です。薬物に手を出してしまう人は、様々なことを一人で抱え込んでしまったために薬物に頼ろうとしてしまうという人もいます。一人で立ち直ろうとするのではなく、周りにも頼ることが大切です。

現在では、ダルクのように薬物依存症の方で作られる自助グループや、薬物依存を精神症状と考えて治療を行う医療機関もあります。執行猶予付き判決において保護観察がついた場合には専門のプログラムが組まれている場合もあります。これらをきちんと利用することで、周りの人の助けを得ることができます。

また、家族の支えも重要です。刑事手続きが一通り終結すると、病院へ入院する場合等ではない限り、日常生活の多くを家族と過ごすことになります。家族との関わりを持って生活できることが、薬物に頼らないで生活していくための足掛かりにもなります。

一度薬物に関与してしまった場合、辞めたくても辞められない、負の連鎖に陥ってしまうことが多々あります。自分が薬物との関わりを絶つとの意思を強く持つことと、薬物を絶つための環境に身を置き周囲の人に信頼してもらい、援助を受けていくことが、再犯の防止のためには重要な事です。

…司法取引が日本でも始まるの?

平成27年8月に刑事訴訟法の一部が改正され、「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意」の運用が始まっています。

これは、重大犯罪や薬物事件、国際的な事件、例えば大規模な密輸事件について、取調べを受けている被疑者や、起訴された被告人が検察官との間で、

①被疑者が他の者の犯罪(多くは共犯者であると思われます。)について警察に対して供述したり法廷で証言したりするのと引き換えに、
②検察官は、その被疑者に対して起訴しなかったり罰金刑や執行猶予のみが言い渡される手続きにしたりすることを約束することをいいます。

麻薬及び向精神薬取締法違反の罪についてもこの制度の適用対象になります。

アメリカなどの司法取引と似ていますが、アメリカの司法取引は自分の犯罪を認めることと引き換えに有利な処分をすることが多いのに対して、日本の場合は「他人の犯罪」について情報提供を行うという点で異なっています。日本の制度は、組織的な犯罪について組織全体を摘発することを目的としています。

また、対象事件として「死刑又は無期の懲役」が定められている罪については対象となりません。そのため、ジアセチルモルヒネ等の麻薬の営利目的密輸罪については、この制度は適用されないこととなります。

合意できる内容として、検察官がする行為は、起訴をしないこと、起訴の取消し、特定の求刑をすること等があります。このうち、検察官が合意に反した場合には、裁判所はこれを強制することができますが、特定の求刑をするとの部分については検察官に特定できません。また、検察官がした求刑通りの判決となるかどうかについては法律上明言されていません。

麻薬や向精神薬のような薬物事件は本人のみならず、周囲の人との関係も問題となりうる犯罪です。麻薬取締法違反についてお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。岐阜県の薬物事件についても経験の豊富な弁護士が、後の更生まで見通して弁護活動を行ってまいります。家族、知人が逮捕されてしまったという場合には、弁護士が最短即日で接見に赴く初回接見も行っております。逮捕されてから間もない段階で弁護士と相談することにより、事件の問題点を早期から把握することができます。

 

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