【事例】
会社員Aさんは、3年前に離婚を経験しています。
離婚当時、3歳の長男がいましたが、親権は元妻にあり、これまで元妻が実家で養育していました。
Aさんは、離婚後、何度か元妻の実家に行き、長男に会おうとしましたが、義父母がそれを了承せずに、Aさんはこれまで一度も会っていません。
まもなく長男が小学校に入学することから、どうしても長男の成長を見たいAさんは、昨日、長男が通っている幼稚園に行き、幼稚園の先生に「元妻に頼まれて迎えに来た。」と嘘を吐いて長男を幼稚園から連れ去りました。
Aさんは、夕方までに長男を元妻の実家に送り届けるつもりで、長男とレストランで食事をした後に、デパートに行きました。
そしてデパートで買い物をして駐車場に戻ったところ、元妻からの通報を受けてAさん等の行方を捜していた岐阜県飛騨警察署の捜査員に発見されたのです。
そこでAさんは未成年者誘拐罪で現行犯逮捕されました。
逮捕後、Aさんに選任された刑事弁護人は、同居するAさんの両親が監視監督することを約束してAさんの勾留を阻止するのに成功しました。
(フィクションです。)
【未成年者誘拐罪について】
刑法第244条は、未成年者を略取または誘拐した者について3月以上7年以下の懲役に処すと規定しています。
「略取」とは、広く被拐取者の意思(幼児や意思無能力者のときは推定的同意)に反して行われますが、「誘拐」とは、欺罔・誘惑を手段として不法に未成年者を自己または第三者の実力的支配内に移すことをいいます。
「欺罔」とは、虚偽の事実をもって相手方を錯誤に陥れることをいい、「誘惑」とは、欺罔の程度に至らないが、甘言で相手方を動かし、その判断の適正を誤らせることを意味します。
また、自己又は第三者の実力支配内に移す行為が、是非弁別能力のない幼児などの心身喪失・抗拒不応状態に乗じてなされる場合が略取、知慮浅薄・心神耗弱に乗じてなされる場合が誘拐に当たります。
【勾留の却下】
~勾留~
警察に逮捕されると、逮捕から48時間は逮捕に付随する行為として留置が認められています。
そして警察は逮捕から48時間以内に検察庁に送致しなければなりません。
送致を受けた検察官は24時間以内に釈放するか、裁判官に勾留を請求しなければならないのです。
裁判官が勾留を決定すれば勾留が決定した日から10日~20日間は身体拘束を受けることになります。
~勾留の回避~
事前に弁護士を選任することによって勾留を回避することが可能になります。
①検察官が勾留請求をしない
検察官は、送致までに作成された書類と、被疑者を取調べた結果によって勾留請求するか否かを決定します。
それらの書類は主に「勾留の必要性がある」といった内容になっています。
弁護士が、警察等の捜査機関が知り得ない情報を書類にして「勾留の必要性はない」ことを訴えれば検察官が勾留請求をしないことがあります。
②裁判官が勾留請求を却下する
検察官の勾留請求を阻止できなかった場合でも、次は、勾留を決定する立場にある裁判官に対して勾留の回避を働きかけることができます。
主に勾留は、釈放すれば刑事手続き上の支障が生じる場合(証拠隠滅や逃走のおそれがある場合)に決定されますが、そのような虞がないことを訴えることで、裁判官が、検察官の勾留請求を却下することがあります。
③勾留決定に対する異議申し立て(準抗告)
一度、裁判官が勾留を決定した場合でも、この決定に対して異議を申し立てることができます。
これを準抗告といいます。
勾留は一人の裁判官の判断によって決定しますが、その決定に対して準抗告した場合は、最初に勾留を決定した裁判官以外の3人の裁判官によって審議されます。
先入観のない複数の裁判官が、捜査側(警察官や検察官)の作成した書類と、弁護側の作成した書類を見比べて、勾留の必要があるか否かを新たに判断するのが準抗告です。
準抗告が認容されると、最初に決定した勾留はその効力を失います。
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