「逆送」と改正少年法の「特定少年」

「逆送」と改正少年法の「特定少年」

逆送」と改正少年法の「特定少年」について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

岐阜県岐阜市に住んでいる18歳のAさんは、友人らと一緒に近所のコンビニに押し入り、店員に包丁を突き付けてレジに入っている売上金を渡すように迫りました。
Aさんらは売上金を奪うと逃走しましたが、店員が岐阜県岐阜羽島警察署に通報したことで警察官が駆け付け、Aさんらは強盗罪の容疑で逮捕されました。
Aさんの両親は、Aさんが逮捕されたことを知り、どうにかAさんの力になれないかと少年事件について調べてみました。
ネットで「18歳で少年事件を起こすと逆送される」といった情報を見かけたAさんの両親は、「逆送とは何なのか」「18歳のAさんの受ける手続きはどういったものなのか」と不安になり、少年事件を取り扱う弁護士に相談してみることにしました。
(※この事例はフィクションです。)

・「逆送」とは何か?

少年事件の手続の中で、「逆送」という言葉が登場することがあります。
今回のAさんの両親も、少年事件について調べる中で「逆送」という言葉を見つけています。
では、この「逆送」とはどういった手続を指すのでしょうか。

逆送」とは、少年事件を家庭裁判所から検察官へ送致する手続のことを指します。
少年事件は、警察や検察の捜査を受けた後、原則として全ての事件が家庭裁判所に送致されます(全件送致主義)。
基本的に、少年事件は家庭裁判所での調査を経て審判に付せられ、その後少年は保護処分となります。
しかし、一定の条件に当てはまる少年事件については、刑事手続を受けることが相当であるという判断が下される場合があります(参考:少年法第20条)。
この場合に、少年事件を家庭裁判所から検察官へ戻す=普段とは「逆」に「送致」する手続が「逆送」と呼ばれているのです。

それでは、「逆送」後にその少年事件がどういった手続で進んでいくのか確認してみましょう。
少年法では、少年事件が「逆送」され、検察官のもとに再度送られた後の手続について、以下のように定められています。

少年法第45条
家庭裁判所が、第20条の規定によつて事件を検察官に送致したときは、次の例による。
第5号 検察官は、家庭裁判所から送致を受けた事件について、公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑があると思料するときは、公訴を提起しなければならない。
ただし、送致を受けた事件の一部について公訴を提起するに足りる犯罪の嫌疑がないか、又は犯罪の情状等に影響を及ぼすべき新たな事情を発見したため、訴追を相当でないと思料するときは、この限りでない。
送致後の情況により訴追を相当でないと思料するときも、同様である。

少年法第45条第5号では、「逆送」された少年事件について、検察官が犯罪の嫌疑が相当程度あると考えた場合には原則として起訴しなければならないと定められています。
つまり、家庭裁判所から「逆送」された少年事件については、基本的に起訴されるものと考えた方がよいということです。

逆送」された少年事件が起訴されると、成人の刑事事件同様、刑事裁判となります。
通常の少年事件において家庭裁判所で開かれる審判では、有罪・無罪を決めることはなく、その審判で少年に付される保護処分も刑罰ではありません。
しかし、「逆送」され起訴された後に開かれる刑事裁判では、成人の刑事事件と同じく有罪・無罪が判断され、有罪であった場合には刑罰の重さも決められます。
その結果、刑務所へ行くことになる場合も考えられます。

・「逆送」と改正少年法の「特定少年」

ここまで確認してきた少年法ですが、令和4年4月1日には改正少年法が施行されます。
この改正少年法では、20歳未満の「少年」のうち、18歳・19歳の少年が「特定少年」とされ、17歳以下の少年と扱いを分けることが定められています。
今まで見てきた「逆送」に関しても、18歳・19歳の「特定少年」であるのか、17歳以下の少年であるのかによって大きな違いが生まれることになりました。
以下、改正少年法の該当箇所を確認してみましょう。

改正少年法第62条
第1項 家庭裁判所は、特定少年(18歳以上の少年をいう。以下同じ。)に係る事件については、第20条の規定にかかわらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分を相当と認めるときは、決定をもつて、これを管轄地方裁判所に対応する検察庁の検察官に送致しなければならない。

第2項 前項の規定にかかわらず、家庭裁判所は、特定少年に係る次に掲げる事件については、同項の決定をしなければならない。
ただし、調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるときは、この限りでない。
第1号 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの
第2号 死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件であつて、その罪を犯すとき特定少年に係るもの(前号に該当するものを除く。)

改正少年法第62条では、第1項で「特定少年」に係る少年事件について刑事処分が相当であると判断できる場合には「逆送」できるということを、第2項で「特定少年」が起こした少年事件で「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件」は原則「逆送」とすることが定められています。
現行の少年法では、「死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件」(少年法第20条第1項)が「逆送」できる事件として、「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件であつて、その罪を犯すとき16歳以上の少年に係るもの」(少年法第20条第2項)が原則「逆送」する事件として定められています。
ですから、改正少年法では、「特定少年」について「逆送」できる事件の範囲と、原則として「逆送」する事件の範囲が広がったということになります。

今回の事例のAさんの場合、Aさんの年齢は18歳です。
ですから、この事例が起こった時期が令和4年4月1日以降の改正少年法施行の後のことであれば、Aさんは「特定少年」の扱いを受けることになるでしょう。
Aさんの容疑のかけられている強盗罪(刑法第236条第1項)ですが、その法定刑は「5年以上の有期懲役」となっていますから、改正少年法の「特定少年」の原則「逆送」の条件である「短期1年以上の懲役」に当てはまります。
そのため、Aさんの事例が令和4年4月1日以降の話であれば、Aさんの強盗事件は原則「逆送」され、刑事手続に則って処理されることになると思われます。

先ほど確認した通り、「逆送」されるということは成人の刑事事件同様に刑事手続を受けるということです。
起訴されて刑事裁判を受ける可能性も高く、有罪となれば刑罰を受けることにもなります。
少年事件の手続に対する対応だけでなく、刑事裁判を見据えた対応も行わなければなりませんから、刑事事件少年事件両方に対応可能な弁護士に相談・依頼することが重要です。
刑事事件少年事件を数多く取り扱う弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、改正少年法施行後の少年事件についてのご相談・ご依頼も承っています。
少年事件への対応が不安な方、「逆送」に関する弁護活動を詳しく聞いてみたいという方、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。

 

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