育児放棄で保護責任者遺棄致死に問われるケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
~事例~
岐阜県瑞穂市のマンションに幼児(2歳)を置去りにし、長期間家を空けた結果、幼児が飢餓と脱水で死亡した事件で、幼児の母親のAさんが岐阜県北方警察署に保護責任者遺棄致死の容疑で逮捕されました。
Aさんは、大まか容疑を認めており、交際相手と旅行にいくため幼児を置去りにしたまま家を1週間以上空けていたと話しています。
(フィクションです。)
育児放棄
幼い児童への殴る蹴るなどの暴行により児童を死なせてしまうという痛ましい事件が近年世間を騒がせています。
児童虐待については、児童虐待の防止等に関する法律第2条において、以下のように定義しています。
保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の物で、児童を現に監護するものをいう。)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。)について行う次に掲げる行為をいう。
1.児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
2.児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
3.児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前2号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他保護者としての監護を著しく怠ること。
4.児童に対する著しい暴言又は拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
上の3号のように、暴力等を振るわないものの子に対して必要な育児をしない育児放棄(ネグレクト)の類型も少なからず存在しており、結果として子供が亡くなってしまうケースもあります。
育児放棄の場合、必要な育児をしないという不作為が問題となり、保護責任者遺棄致死罪が成立する可能性があります。
保護責任者遺棄致死罪
保護責任者遺棄致死罪は、保護責任者遺棄罪の結果、人を死亡させた場合に成立する罪です。
保護責任者遺棄罪
老年者、幼年者、身体障害者又は病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の懲役に処する。
■主体■
保護責任者遺棄罪の主体は、「保護する責任のある者」(保護責任者)です。
通説及び判例は、保護責任の根拠を、法令、契約、事務管理、習慣・条理に求めています。
法令に基づく保護責任は、親権者の監護義務、親族の扶養義務など私法上の保護義務や、警察官の保護義務など公務上の保護義務があります。
契約に基づく保護責任は、介護契約の場合などがあります。
事務管理というのは、義務なくして他人のために事務の管理を始めた場合をいうのであって、義務なく病人を引き取り同居させた場合などが事務管理に基づく保護責任を発生させます。
そして、習慣・条理に基づく保護義務は、物の道理から導かれる義務で、判例では、ホテルの一室において13歳の少女に覚せい剤を注射して錯乱状態に陥れたが、救護措置をとらずに立ち去り死亡させた事例において、保護責任者遺棄致死罪が認められています。
■客体■
保護責任者遺棄罪の客体は、「老年者、幼年者、身体障がい者又は病者」であり、扶助を要する者です。
■行為■
保護責任者遺棄罪の行為は、「遺棄又は不保護」です。
「遺棄」とは、要扶助者をより危険な場所に移転させることや、要扶助者を危険な場所に置いたまま立ち去る行為を指します。
「不保護」とは、場所的隔離を伴わずに要扶助者の生存に必要な保護をしないことをいいます。
育児放棄のケースにおいて、遺棄が認められたものに、14歳から2歳の子供4人を自宅に置いて6カ月間にわたり家出をし、その間、二度ほど自宅に戻って食事の世話をしたにすぎず、子供を重度の栄養失調症にさせるなどした事例(東京地判昭63.10.26)があります。
また、不保護とされた事例としては、身体が極度に衰弱して日常の動作が不自由となった実子を医師の専門的施療等を受けさせることなく放置した事例(最決昭38・5・30)があります。
■故意■
本罪の故意は、被遺棄者が老年者、幼年者、身体障がい者又は病者であり、扶助を要することの認識、遺棄又は不保護を行うことの認識、そして、自ら保護責任を基礎づける事実の認識が必要となります。
以上が保護責任者遺棄罪の構成要件であり、保護責任者遺棄の罪を犯した結果、人を死亡させた場合には、保護責任者遺棄致死罪が成立し、傷害罪と比較して重い刑により処断されます。
保護責任者遺棄致死の場合、傷害致死罪の法定刑(3年以上の有期懲役)と、基本犯である保護責任者遺棄罪の法定刑(3月以上5年以下の懲役)とを比較して、上限、下限とも重い方に従うことになります。
つまり、3年以上20年以下の懲役の範囲内で刑罰が決められます。
法定刑もかなり重く、有罪となれば実刑となる可能性は高いでしょう。
事案によって、殺人罪の成立が争われたり、遺棄・不保護と死の因果関係の認定が微妙なもの、事実に争いはなくとも情状を酌量すべき事情がある場合など、さまざまですので、どのように対応すべきかは刑事事件に精通する弁護士に相談されるのがよいでしょう。
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