自殺関与罪で逮捕

自殺関与罪で逮捕

自殺関与罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~ケース~

岐阜県大垣市に住むVさんは、医者から末期がんであると申告されました。
Vさんは、「醜い姿で死にたくない。どうせ死ぬなら、今の姿で死にたい。」と思い、恋人のAさんにそのことを打ち明けました。
Aさんは、当初は、Vさんに自殺を思いとどまるよう説得していましたが、Vさんの思いに押し切られ、睡眠薬を用意しました。
後日、Vさんは睡眠薬を多量接種し、死亡しているところを家族に発見されました。
岐阜県大垣警察署は、Aさんから事件の経緯について聞き、Aさんを自殺関与(自殺幇助)の容疑で捜査することにしました。
(フィクションです。)

自殺すること自体は、犯罪には当たりません。
しかし、自殺に何らかの形で関与することが罪となる場合があります。

自殺関与罪について

自殺関与罪については、刑法第202条に規定されています。

第二百二条 人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、六月以上七年以下の懲役又は禁錮に処する。

自殺関与罪は、刑法第202条の前段に規定されており、後段は同意殺人罪についてです。

自殺関与罪は、「自殺教唆罪」と「自殺幇助罪」とに分けられます。

1.自殺教唆罪

自殺教唆罪は、人を「教唆」して自殺させた場合に成立する罪です。
人に、自殺するようにそそのかし、自殺の決意を生じさせることにより、罪に問われます。
例えば、Aさんにはもともと自殺する気はなかったのに、Bさんから自殺するように言われ続け、Aさんが遂に自殺するに至った場合、Bさんに対して自殺教唆罪が成立する可能性があります。

しかし、人から「自殺しろ」と言われて、簡単に自殺する人は少ないでしょう。
実際の事件では、被害者に選択の余地が少なく、最終的に「死んだほうがマシだ。」と思い、自殺を決意するケースが多いように思います。
そうなると、自殺に追い込んだから「殺人」のようなものだと感じられる場合もあるでしょう。
殺人罪と自殺教唆罪との区別について、「自殺の決意が自殺者の自由意思による時は自殺教唆罪、自由意思がもてない程度の威迫を加えて自殺させたときは殺人罪」とする判例があります。(広島高裁昭和29年6月30日判決)
最近では、上司から暴言などパワハラ行為を受けていた新入社員が自殺したことを受け、その上司が自殺教唆罪に問われた事件がありました。

2.自殺幇助罪

自殺ほう助罪は、人を「幇助」して自殺させた場合に成立する罪です。
人が自殺するのを容易にすることにより、罪に問われます。
自殺教唆罪とは異なり、自殺者はすでに自殺することを決意しており、その者が自殺をするのを手助けする行為が対象となります。

2018年、自殺した有名な評論家の自殺を手助けしたとして、2人の男性が自殺幇助の疑いで逮捕された事件が、当時ニュースで頻繁に報道されていました。
自殺したAさんは、病気で両手が不自由だったにもかかわらず、遺体発見時に体のハーネスと川岸の木がロープで結び付けられていたため、何者かが手助けしたとして捜査が開始されました。
逮捕された2人は、Aさんに頼まれて自殺を手伝ったとのことです。

自殺を容易にする方法は、物理的方法に限らず、精神的に容易にすることも含まれます。

刑法第202条の後段に規定される「同意殺人罪」は、人から依頼を受けてその人を殺した場合には「嘱託殺人罪」に、人の同意を得てその人を殺した場合には「承諾殺人罪」に当たるとされています。

上のケースでは、Aさんが睡眠薬を用意し、Vさんがそれを服用し自殺しています。
ですので、Aさんの行為はVさんの自殺を容易にしたとして、自殺幇助罪に問われているのです。

自殺幇助罪の法定刑は、6月以上7年以下の懲役又は禁固で、罰金刑はありません。
容疑を認めている場合、少しでも刑を軽くするために、被疑者・被告人に有利な事情を主張し、検察官、裁判官に寛大な処分を求めていくことが重要でしょう。

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