強制性交等未遂事件で逮捕

強制性交等未遂事件について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

深夜、岐阜県郡上市の路上を歩いていた女性Vさんは、突然、見知らぬ男性に声を掛けられ、身体を触られました。
驚いたVさんは、走ってその場から逃げようとしましたが、男性は追いかけてVさんの腕を掴み、傍の空き地に連れて行き、Vさんを押し倒しました。
Vさんは必死に抵抗し、何とか隙をみて男性から逃げました。
そして、Vさんはすぐに110番通報をしました。
通報を受けて駆け付けた岐阜県郡上警察署の警察官は、現場付近で目撃情報と一致する男性を見かけたため、男性に職務質問をしたところ、Vさんへの行為を認めたため強制性交等未遂の容疑で逮捕しました。
しかし、男性は「性交する気はなかった。」と供述しています。
(フィクションです)

強制性交等未遂罪

強制性交等未遂罪は、強制性交等の実行行為に着手したものの、何らかの要因によって犯罪を成し遂げることができなかった場合に成立する犯罪です。

強制性交等罪は、平成29年7月13日に施行された刑法改正により、それまで規定されていた強姦罪の承継類型として改正施行されました。

強制性交等罪は、
①13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下、「性交等」といいます。)をした場合、及び、
②13歳未満の者に対し、性交等をした場合
に成立するものです。

◇犯行の対象◇

刑法改正前の強姦罪では、対象は女性に限定されていましたが、強制性交等罪の犯行対象は、男女を問いません。

◇行為◇

強制性交等罪の実行行為は、対象の年齢によって異なります。

①相手が13歳以上である場合
対象が13歳以上の者である場合、強制性交等罪の実行行為は、「暴行又は脅迫を用いての性交等」です。
ここでいう「暴行・脅迫」とは、被害者の反抗を著しく困難にする程度のもので足り、犯行を抑圧する程度に達することまで要しません。
この程度に達していたか否かは、被害者の年齢、精神状態、健康状態、犯行の時刻・場所・態様などの諸事情を考慮して客観的に判断されます。

②相手が13歳未満である場合
対象が13歳未満の者である場合、暴行・脅迫を用いることは必要ではなく、「性交等」が実行行為となります。
「性交等」は、「性交」、「肛門性交」、「口腔性交」の総称です。
「性交」とは、膣内に陰茎を入れる行為をいい、「肛門性交」は、肛門内に陰茎を入れる行為、そして「口腔性交」は、口腔内に陰茎を入れる行為のことです。
「性交等」には、行為者が自己又は第三者の陰茎を被害者の膣内、肛門内又は口腔内に入れる行為だけでなく、自己又は第三者の膣内、肛門内又は口腔内に被害者の陰茎を入れる行為も含みます。

実行行為を開始した時期は、①相手が13歳以上である場合には、暴行・脅迫を開始した時期、②相手が13歳未満である場合は、性交等を開始した時期となります。
暴行・脅迫を開始した時が実行の着手時期と認められるためには、性交等を可能にするような客観的な事情でなされる必要があります。
実行の着手が認められたものとして、
・夜間通行中の女性を性交等しようと考え、必死に抵抗する女性をダンプカーの運転席に引きずりこもうとした時。(最決昭45・7・28)
・山林の県道ですれ違った女性を道端の山林に引っ張り込もうとして腰を抱き、逃走しようとするのを押さえつけた時。(仙台高判昭33・8・27)
実行の着手が認められなかったものでは、
・マンションのエントランスホールで女性の背後から抱きつき、腹部を蹴り約20メートル離れた道路の駐車中の車に連れ込もうとしたが、抵抗されて断念した場合。(広島高判平16・3・23)
つまり、暴行・脅迫を開始した時が実行の着手時期と認められるには、夜遅い時間であって第三者の出現可能性が低いこと、山道や密室など第三者の出現可能性が極めて低い場所であること、暴行の程度が強いなど、被害者の抵抗や第三者と出会う可能性が低い状況を作り出すことが必要となります。

強制性交等罪は、膣内・肛門内・口腔内に陰茎を没入した時に当該犯罪が完成するものです。

◇故意◇

強制性交等罪の成立には、故意がなければなりません。
「故意」というのは、罪を犯す意思のことです。
強制性交等罪における故意とは、①相手が13歳以上の場合、性交等の手段としての暴行・脅迫の認識・認容、性交等の認識・認容です。
また、②相手が13歳未満の場合には、被害者が13歳未満であること、性交等の認識・認容が必要となります。

さて、上の事例で、男性は性交する意図はなかったと故意を否認しています。
しかし、深夜に人気のない路上で女性を襲い、必要に追いかけ、空き地に連れ込むといった行為から、性交等の認識・認容が認められる可能性はあるでしょう。
故意が認められないとしても、当該ケースでは、少なくとも強制わいせつ罪には該当するものと考えられます。

強制性交等罪の法定刑は、5年以上の有期懲役です。
起訴され有罪となれば、この範囲で刑罰が決められます。
未遂であれば、減軽の対象となりますが、そもそも法定刑が懲役刑のみと重い罪です。

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