殺人:予備罪と未遂罪

殺人予備罪未遂罪について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
岐阜県不破郡関ケ原町の会社から、「会社の敷地内にナイフをもってわめいている男性がいる。」と110番通報がありました。
通報を受けて現場に駆け付けた岐阜県垂井警察署の警察官は、セキュリティがかかり閉まった玄関ドアの外でナイフを持っていた男性を発見し、銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕しました。
男性は、調べに対して「社長に恨みをもっており、殺そうと思って会社に行った。」と供述しています。
(フィクションです)

上の事例では、男性が会社の社長を殺す意思(殺意)に基づき、凶器であるナイフを手にして会社へ出向きました。
しかし、社長を殺すという目的は果たせていませんし、社長と会うことすらできていません。
このような場合には、銃刀法違反以外にも罪が成立する可能性はあるのでしょうか。

殺人未遂罪

犯罪の実行に着手して、これを遂げなかった場合を「未遂」といいます。
「実行の着手」とは、実行行為の一部を開始することをいいます。
未遂罪の成立には、「犯罪の実行に着手」することが必要となります。
この実行の着手の有無をどのような基準を基に判断するのかが問題となります。
実行の着手時期の判断基準について、様々な学説がありますが、法益侵害の現実的危険の発生を基準に実行の着手時期を決定する「実質的客観説」が通説となっています。
判例は、行為者の犯罪計画全体に照らし、法益侵害の危険が切迫した時点に実行の着手を求める見解に立っています。

殺人罪についての判例で、被告人らの殺害計画は、クロロホルムを吸引させて被害者を失神させた上、その失神状態を利用し、被害者を港まで運び車ごと海中に転落させて溺死させるというものであって、第1行為(クロロホルムを吸引させる行為)は第2行為(港まで運んで車を転落させる行為)を確実かつ容易におこなうために必要不可欠なものであったといえること、そして、第1行為に成功した場合、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在しなかったと認められること、第1行為と第2行為との間の時間的場所的近接性などに照らすと、第1行為は第2行為に密接な行為であり、被告人らが第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるため、その時点において殺人罪の実行の着手があったものと解するのが相当だとしたものがあります。(最決平16・3・22)
つまり、最高裁は、クロロホルムの吸引行為が海中への転落行為に密接な行為であり、それ自体殺害に至る客観的な危険性があることから、クロロホルムの吸引行為を開始した時点で殺人の実行の着手があったものと認めています。

殺人予備罪

予備」とは、犯罪の実現を目的として行われる謀議以外の方法による準備行為をいいます。
予備罪は、特定の既遂犯を実現する目的でなされる準備行為を処罰するものです。

予備を処罰する規定には、殺人予備罪があります。

刑法201条 
第199条の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の懲役に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。

殺人の実行を可能にし、または容易にする準備行為が「殺人予備罪」となります。
判例では、人を殺害する目的で包丁を携えて被害者宅に侵入し、被害者の姿を探し求めて屋内を通り歩いた行為、他人から殺人の用に供するための青酸カリの調達入手方の依頼を受け、これを入手してその他人に手交する行為、殺人を意図して被害者等の日常通行する農道の道端に毒入りジュースを置く行為は殺人予備罪に該当するとしています。

さて、上の事例について検討してみますと、Aさんは、会社社長を殺すつもりでナイフを持って会社の敷地内に侵入しています。
しかしながら、会社の玄関の外でAさんの身柄が確保されており、Aさんが会社社長に会うことすらなく、会社社長を殺害することができませんでした。
そのため、ナイフを持って会社の敷地内に侵入した時点では、社長の殺害に至る客観的な危険性があったとは言えず、実行行為の着手があったとは認められないでしょう。
殺人未遂罪は成立し難いでしょう。
一方、会社社長を殺す意思のもとナイフを所持して会社社長がいるであろう会社の敷地内に侵入したため、殺人の準備行為には当たり、殺人予備罪が成立する可能性はあるでしょう。
殺人予備罪の他に、建造物侵入罪も成立するものと考えられます。

殺人予備罪は、法定刑が2年以下の懲役と、殺人罪や殺人未遂罪と比べると軽い刑罰となっています。
しかし、一歩間違えれば、実際に人を殺害してしまっていた可能性もありますので、決して軽い罪とは言えません。
刑事事件に強い弁護士に相談し、事案に応じた適切な対応を速やかにとるよう努めることが重要です。

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