痴漢事件①:迷惑防止条例違反

痴漢行為が迷惑防止条例違反に当たる場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~

会社員のAさんは、満員電車の中で前に立つ女性が抵抗できないことをいいことに、そのスカートの上から、女性の臀部をなでたところ、女性に手を掴まれ、次の停車駅で降ろされました。
その後、駅長室に連れて行かれ、通報を受けて駆け付けた岐阜県岐阜中警察署の警察官に引き渡されました。
(フィクションです)

痴漢をした場合に成立し得る罪とは

痴漢とは、一般的に、電車やバスなどの交通公共機関の車両内や路上などで、他人の体を触ったり、性器を押付けるなどの卑わいな行為またはそのような行為を行う者を指します。
現行法には痴漢罪なる罪は存在しませんが、痴漢は、その態様によって、各都道府県が定める迷惑防止条例に違反する、若しくは刑法の強制わいせつ罪に当たる可能性があります。

1.迷惑防止条例違反

各都道府県において制定される迷惑防止条例は、ダフ屋行為、粗暴行為、不当客引き行為などの他、痴漢行為や盗撮行為、つきまとい行為などを違反行為と規定し、処罰の対象としています。
痴漢行為についての規定の仕方は、各都道府県の迷惑防止条例により様々ですが、今回は、岐阜県の迷惑防止条例について概説します。

岐阜県迷惑防止条例は、その3条において卑わいな行為を禁止しており、痴漢行為は本条で以下のように禁止されています。

第3条 何人も、正当な理由がないのに、公共の場所にいる者又は公共の乗物に乗つ
ている者に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、
次の各号のいずれかに掲げる行為をしてはならない。
(1) 衣服その他の身に着ける物(以下「衣服等」という。)の上から、又は直接人の
身体に触れること。
(2) 通常衣服等で覆われている人の下着又は身体(以下「下着等」という。)を見るこ
と。
(3) 通常衣服等で覆われている人の下着等の映像を見、又は記録する目的で、写真
機、ビデオカメラその他これらに類する機器(以下「写真機等」という。)を設置
し、又は通常衣服等で覆われている人の下着等に向けること。
(4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
2 何人も、正当な理由がないのに、学校、事務所その他の不特定若しくは多数の者
が利用し、若しくは出入りする場所にいる者又はタクシーその他の不特定若しくは
多数の者が利用する乗物に乗つている者(前項に規定する者を除く。)に対し、人
を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号のいずれか
に掲げる行為をしてはならない。
(1) 拒まれたにもかかわらず、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
(2) 通常衣服等で覆われている人の下着等を見ること。
(3) 通常衣服等で覆われている人の下着等の映像を見、又は記録する目的で、写真機
等を設置し、又は通常衣服等で覆われている人の下着等に向けること。
3 何人も、正当な理由がないのに、前2項に規定する場所にいる者又は乗物に乗つ
ている者に対し、衣服等を透かして見る方法により衣服等で覆われている人の下着
等の映像を見、又は記録する目的で、衣服等を透かして見ることができる写真機等
を設置し、又は人に向けてはならない。
4 何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服
等の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる者に対し、人を著しく羞
恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次の各号のいずれかに掲げる行
為をしてはならない。
(1) 当該状態でいる人の姿態を見ること。
(2) 当該状態でいる人の姿態の映像を見、又は記録する目的で、写真機等を設置し、
又は当該状態でいる人に向けること。

岐阜県迷惑防止条例の規定は、行為態様を具体的に例示しています。

(1)公共の場所にいる者・公共の乗物に乗った者に対し、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる方法で、
①衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。
②その他の卑わいな言動をすること。

1項は、「公共の場所」及び「公共の乗物」という場所的制限が定められています。
「公共の場所」とは、不特定かつ多数が自由に利用し、又は出入りすることができる場所をいいます。
例えば、道路、公園、広場など国や地方公共団体の所有地や施設だけでなく、駅、桟橋やふ頭、デパート、飲食店、興行場等も公共の場所です。
「公共の乗物」とは、電車、バス、船舶、飛行機その他不特定多数の者が利用するための乗物をいいます。
タクシー、ハイヤー、貸切バス・列車など、不特定多数の人が利用する物ではない乗物は公共の乗物には含まれません。

行為の手段については、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせる方法」であることが規定されています。
「人を著しく羞恥させ」るとは、通常人の感覚において、「ひどい」と思われる程度に、性的なはじらいを感じさせることを指します。
また、「人に不安を覚えさせる」とは、①衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること、や②その他の卑わいな言動、によって身体に対する危険を感じさせたり、心理的圧迫を与えることをいいます。

「卑わいな言動」とは、一般人に性的道義観念に反し、他人に性的羞恥心、嫌悪を覚えさせ、又は不安を覚えさせる追うないやらしくみだらな言動や動作をいいます。

(2)学校、事務所その他の不特定若しくは多数の者が利用し、若しくは出入りする場所にいる者・タクシーその他の不特定若しくは多数の者が利用する乗物に乗っている者に対し、人
を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、拒まれたにもかかわらず、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れること。

2項では、「不特定多数の者が利用・出入りする場所」又は「不特定多数の者が利用する乗物」にいる者に対する行為が対象となっており、その例として学校や事務所、タクシーが規定されています。
禁止行為については、「拒まれたにもかかわらず、衣類等の上から、又は直接人の身体に触れること」となっており、相手方に「拒まれた」ことが要件となっています。

通常の痴漢、例えば、服の上から人の胸や臀部を触るものや太ももなどを直接触るものであれば、迷惑防止条例違反となるでしょう。
Aさんの場合、電車(公共の乗物)内にいる女性に対して、そのスカートの上から臀部をなでていますので、迷惑防止条例違反が成立するものと考えられます。
しかし、痴漢の態様によっては、刑法の強制わいせつ罪に当たることもあります。
強制わいせつ罪に当たるケースについては、次回のブログで解説します。

岐阜県迷惑防止条例違反の場合、法定刑は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(常習の場合は、6月以下の懲役又は100万円以下の罰金)です。
容疑を認めており、初犯であり、かつ被害者との示談が成立した場合であれば、起訴猶予で不起訴処分となる可能性が高いでしょう。
被害者との示談が成立しなかった場合は、略式起訴で罰金刑というケースが多いです。
略式起訴となり罰金刑であっても有罪判決が言い渡されたことには違いありませんので、前科が付くことになります。
前科を回避するのであれば、不起訴処分を獲得する必要があります。
被害者との示談成立の有無が最終的な処分に大きく影響するため、早期に弁護士に依頼し、示談交渉に着手することが重要です。

弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、痴漢事件をはじめとした刑事事件専門の法律事務所です。
痴漢事件を起こし対応にお困りであれば、弊所の弁護士に今すぐご相談ください。

 

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