職務質問から刑事事件に発展②
職務質問から刑事事件に発展したケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。
【刑事事件例】
岐阜県多治見市に住むAさんは、岐阜県多治見市内の歩道において、Vさんが所有していたバッグが忘れられているのを見つけ、バッグを無断で持ち去りました。
後日、Aさんが深夜、Vさんのバッグを持ち去ったのと同じ歩道付近を歩いていると、周辺をパトロールしていた岐阜県多治見警察署の警察官に声を掛けられました。
Aさんは、警察官から「この付近で発生した遺失物横領事件の犯人に似ている」と言われました。
Aさんは「職務質問は任意でしょう、任意なら応じません」と言いましたが、警察官も食い下がり、2時間にわたり職務質問を受けました。
その結果、Aさんは歩道に置いてあったバッグを持ち去った遺失物横領事件の犯人であることを認めました。
Aさんは、遺失物横領罪の容疑者として話を聞かれることとなったのですが、自分の受けた職務質問が違法なものなのではないかと疑問に感じ、弁護士に相談しようと考えています。
(2020年12月3日に岐阜新聞に掲載された記事を参考に作成したフィクションです。)
【職務質問の適法性】
ここで、参考として、職務質問の適法性、特に職務質問の最中に立ち去ろうとする者をその場に留め置くこと(留め置き)の適法性が問題となった裁判例を見ていきたいと思います。
平成6年9月16日の最高裁判所決定では、覚せい剤取締法違反の疑いがある者に対して、午後11時10分頃に職務質問を開始し、午後5時43分頃の令状による強制採尿までの間の約6時間30分にわたり留め置きをした場合、「説得行為としてはその限度を超え、」「移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして、違法といわざるを得ない」と判示しています。
平成8年9月3日の東京高等裁判所判決では、覚せい剤取締法、道路運送車両法違反違反の疑いがある者に対して、午後1時38分頃に職務質問を開始し、午後5時45分頃に任意同行に応じるまでの間の約4時間にわたり留め置きをした場合、留め置きは「なお許容される時間的限界内にあったものであるというべきである。」と判示しています。
職務質問の際の留め置きが適法といえるかは、留め置きの時間、留め置きの態様、被疑者の態度などの考慮要素から総合的に判断されますが、上記の判例はその考慮要素として参考になるといえるでしょう。
これらの裁判例を参考に本件刑事事件例を見てみます。
Aさんは、岐阜県多治見警察署の警察官により「付近で発生した置引きの犯人に似ている」として職務質問を受けています。
この職務質問は、Aさんが「既に行われた犯罪について」「知っていると認められる者」(警察官職務執行法2条1項)に該当するとして開始されたものであり、適法であると考えられます。
また、Aさんは警察官による質問に対して返答をせず、その場を立ち去ろうとしているから、Aさんに対して、さらに職務質問を継続する必要性はあったと考えられます。
さらに、Aさんは警察官に対して「職務質問は任意でしょう、任意なら応じません」と言いましたが、警察官も食い下がり、2時間の間、職務質問を受けています。
この警察官の職務質問行為は、2時間という時間にとどまること、付近で発生した遺失物横領事件の被疑者によく似た風貌をしていたことなどを総合的に判断すれば、職務質問として許容される相当な時間的限界内にあったといえると考えられます。
以上より、今回の事例での警察官による職務質問は適法であると考えられます。
【遺失物横領罪とは】
Aさんは、上記職務質問により置引きをしたことを認めています。
Aさんは歩道にVさんが所有していたバッグが忘れられているのを見つけ、バッグを無断で持ち去っていますが、この行為は遺失物横領罪にあたると考えられます。
刑法254条
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
Vさんの置き忘れられていたバッグは遺失物横領罪の「遺失物」に、そのバッグを無断で持ち去った行為が遺失物横領罪の「横領」に該当すると考えられるでしょう。
刑事弁護士としては、Aさんが遺失物横領罪の容疑を認めていることを前提に、例えば被害者の方に正式な謝罪や被害弁償を行い、示談締結を目指すなどの刑事弁護活動を行っていくことになるでしょう。
職務質問から刑事事件に発展した場合、自分の受けた職務質問が適法なのかどうかといったことに疑問を持たれる方もいるでしょう。
その判断には専門知識も必要となりますから、まずは弁護士に相談してみましょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所は、刑事事件を専門に扱う法律事務所です。
職務質問を受けた遺失物横領事件でお困りの方は、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所までご相談ください。