強制わいせつ事件で逮捕

強制わいせつ事件で逮捕された場合について、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所が解説します。

~事例~
岐阜県恵那警察署は、岐阜県恵那市に住むAさんを強制わいせつの容疑で逮捕しました。
ネットで知り合った女性に対して、Aさんは医師でもないのに「乳がんかどうか調べてあげる。」と言って、女性の胸を触るなどのわいせつな行為をしました。
女性は、その後、岐阜県恵那警察署に相談し、今回の事件が発覚しました。
Aさんは、「性的意図はなかった。」と供述しています。
(フィクションです。)

強制わいせつ罪

強制わいせつ罪は、個人の性的自由に対する罪であり、刑法第176条で次のように規定されています。

13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

◇客体◇

男女問わず、強制わいせつ罪の客体となります。

◇行為◇

強制わいせつ罪における行為は、
①13歳以上の者に対しては、暴行または脅迫を用いてわいせつな行為をすることであり、
②13歳未満の者に対しては、手段としての暴行または脅迫は要件となっておらず、単にわいせつな行為をすること、
です。

暴行・脅迫

「暴行」とは、他人の身体に対する有形力の行使をいいます。
「脅迫」は、恐怖心を起こさせる目的で、他人に害悪を告知することです。
判例・通説によれば、暴行または脅迫は、被害者が抵抗すること著しく困難となるような程度のものであることが求められます。
暴行は、殴打や体を押さえつけることのほか、衣服を引き剥ぎ、裸の写真を撮る行為などがそれに当たり、暴行そのものがわいせつ行為であってもよいとされます。

わいせつな行為

「わいせつ」とは、公然わいせつ罪やわいせつ物頒布罪における「わいせつ」とほぼ同じ意味の「いたずらに性欲を興奮または刺激せしめ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」こととされています。
例えば、指を陰部に挿入する行為、被害者の意思に反して乳房や尻に触れる行為、無理やりキスする行為は、わいせつ行為に当たります。

◇主観的要件◇

強制わいせつ罪が成立するための主観的要件として、故意のほかに、「性欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図」を要求し、報復目的で被害者を裸にして写真撮影をした加害者を無罪とした判決(最判昭45・1・29)があります。
しかしながら、強制わいせつ罪において性的意図が必要とした判決に対しては、個人の性的自由の侵害を本質とする強制わいせつ罪において、加害者側の性的意図の有無により犯罪の成立に影響を与えるべきではないという批判もありました。
このような批判もある中で,近時,最高裁判所で、金銭目的で被害児童にわいせつな行為を行い、その様子を撮影するなどした事案において、昭和45年判決は性犯罪に対する当時の社会的理解に大きく依拠したものと考えられ、その後の社会の変化により、今日では、性的意図の存在を,強制わいせつ罪成立のための要件とすることはできないと判断されました(最判平29・11・29)。
ただ、上記の最高裁判決でも,性的意図は強制わいせつ罪が成立するための必須の要件ではないとしただけであり、一切考慮されないとはしていません。
行為の客観的性質や客観的状況からだけでは、強制わいせつ罪におけるわいせつ行為であるかどうかの判断がつかない場合には、行為のわいせつ性を判断する際に加害者の主観面も考慮して判断せざるを得ないとされています。そして,行為そのものの性質に着目しただけで「わいせつな行為」である、あるいはないと判断できる場合と、それだけでは判断できない場合とがあり、判断できない場合には、行為そのものの性質に加えて加害者の主観面も含めた、行為時の具体的状況等の諸般の事情を総合的に考慮して判断するとされました。
平成29年判決の事案は、被告人に性的意図があったと認定するには合理的な疑いが残るが、行為の客観的性質から明らかに強制わいせつ罪におけるわいせつ行為に当たり、故意が認められる以上、強制わいせつ罪の成立を認めました。

上記事例では、Aさんは乳がんの診断と称して女性の胸などを触っていますが、Aさんは医師ではありませんし、胸を触るような正当な理由はありません。仮にAさんが診療目的などを主張し,わいせつ目的ではなかったと主張した場合であっても,胸の触り方や,時間,場所などの具体的事情如何では,Aさんの行為の客観的性質から強制わいせつ罪における「わいせつ行為」であると認定され、強制わいせつ罪の成立が認められる可能性があります。

強制わいせつ罪の法定刑は懲役形のみであり、比較的重い罪ですので、強制わいせつの疑いで捜査を受けておられるのであれば、今後の対応などについて弁護士に相談されるのがよいでしょう。

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