通貨偽造罪で不起訴
Aさんは、岐阜県海津市の自宅で小規模の塾を経営しています。
ある日、Aさんは生徒に算数を教えるに当たり「本物のお金に似た教材を使ったら楽しく学べるかもしれない」と思い至りました。
そこで、Aさんは自宅のプリンターを用いて、一般人であれば一瞬本物と見間違えるようなお札を作成しました。
それを授業で利用したところ、Aさんの生徒2名が無断で持ち帰り、近所のコンビニで利用しました。
これにより、Aさんは家宅捜索ののち通貨偽造罪の疑いで岐阜県海津警察署に逮捕されました。
Aさんと接見した弁護士は、Aさんに行使の目的がなかったことを主張して不起訴を目指すことにしました。
(フィクションです。)
【通貨偽造罪について】
通貨偽造罪は、真正な通貨として買い物などに使う目的で、日本で流通している硬貨や札などの通貨を偽造した場合に成立する可能性のある罪です。
ここで言う「偽造」とは、通貨を作成する権限のない者が、真正な通貨に似た見た目のものを作成する行為を指します。
仮に既存の真正な通貨に加工を加えた場合は、通貨偽造罪ではなく通貨変造罪に当たる可能性があります。
また、通貨偽造罪にせよ通貨変造罪にせよ、作成される通貨は一般人が真正な通貨と見間違うような見た目のものでなければなりません。
先ほど少し触れましたが、通貨偽造罪の成立を肯定するには、買い物などの本来の用法に従って通貨を流通させる目的がなければなりません。
ですので、こうした目的を欠いたまま偽造を行えば、通貨偽造罪の成立は否定される余地が出てきます。
上記事例では、Aさんが本物の1万円札と見間違うような絵柄の紙を印刷しています。
この行為自体は偽造と言えそうですが、Aさんは飽くまで印刷物を教材として使う目的だったに過ぎません。
そのため、行使の目的を欠くことから通貨偽造罪は成立しないと考えられます。
通貨偽造罪の法定刑は無期懲役または3年以上の有期懲役(上限20年)なので、もし有罪となれば厳しい刑が見込まれるでしょう。
【犯罪不成立を主張して不起訴を目指す】
先ほど説明したように、Aさんには通貨偽造罪が成立しない可能性があります。
こうしたケースでは、裁判で争って無罪を獲得する前に、検察官に犯罪の立証が困難と思わせて不起訴にすることが考えられます。
刑事事件について一定の捜査が完了すると、得られた証拠を参照しながら検察官が起訴するか不起訴にするか決定することになります。
検察官が起訴を選択すると裁判(略式手続を含む)になり、不起訴を選択すると事件は終了するのが基本です。
この不起訴には数多くの理由があるのですが、そのうちの一つに嫌疑不十分あるいは嫌疑なしというものがあります。
嫌疑不十分あるいは嫌疑なしによる不起訴は、犯罪の立証が困難あるいは犯罪が成立しないことが明らかな場合に行われます。
つまり、検察官が裁判において有罪を示すのが難しいと判断した場合は、上記理由により不起訴になる可能性があるのです。
上記事例では、客観的に見れば通貨偽造に当たる行為を行っている一方、Aさんの主観において通貨偽造罪の成立要件である「行使の目的」を欠くと考えられます。
このような事情を検察官が捜査の段階で把握すれば、裁判に至る前に不起訴というかたちで疑いが晴れることになるでしょう。
ただ、こうした内面に関する弁護活動には、取調べ対応をはじめとして難しい問題があります。
もし犯罪の成立を争って不起訴を目指すなら、弁護士による入念な弁護活動が極めて重要となります。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所では、刑事事件専門の弁護士が、不起訴を目指して充実した弁護活動を行います。
ご家族などが通貨偽造罪の疑いで逮捕されたら、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所にご相談ください。
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