◇事件◇
トラック運転手のAさんは、休みの日に友人と買い物に行きました。
マイカーを運転して、自宅から岐阜県下呂市のショッピングモールに行ったのですが、その道中にスピード違反をしてしまい、取締りをしていた岐阜県下呂警察署の警察官に停止を求められました。
しかしAさんは、警察官の停止命令に気付かないふりをして、そのまま逃走しました。
Aさんは、これまでに何度か違反しており、累積点数で免許停止になって仕事ができなくなることをおそれて逃走したのです。
そして、Aさんは、同乗していた友人が運転していたことにして、この友人を岐阜県下呂警察署に身代わり出頭させました。
しかし、Aさんの友人は、警察官の追及に耐えれず、Aさんが運転していたことを自供してしまいました。(フィクションです。)
◇犯人蔵匿罪・犯人隠避罪~刑法第103条~◇
罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者の逃走を手助けしたら、犯人蔵匿罪若しくは犯人隠避罪に抵触します。
~犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の客体~
これらの犯罪の客体となるのは①罰金以上の刑に当たる罪を犯した者、又は②拘禁中に逃走した者です。
スピード違反は、通常であれば交通反則切符によって処理されて刑事罰が科せられることはありませんが、道路交通法では、速度超過の法定刑について「6月以下の懲役又は10万円以下の罰金」と定めているので、スピード違反した犯人の逃走を手助けした場合であっても、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の対象となります。
また、以前、愛媛県の松山刑務所から逃走した受刑者や、大阪府富田林警察署の留置場から逃走した被告人が、犯人蔵匿罪・犯人隠避罪でいうところの、拘禁中の者となります。
~犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の行為~
蔵匿…場所を提供すること。(自分の家に匿ったり、潜伏する部屋を用意したりする行為)
隠避…蔵匿以外の逃走を助ける一切の行為。(逃走資金や逃走用の車や衣類等、携帯電話機を用意する行為など)
身代わり出頭する行為も、犯人隠避罪でいう「隠避行為」に当たりますので、Aさんに代わって出頭したAさんの友人は、犯人隠避罪に問われるでしょう。
~犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の罰則~
裁判で有罪が確定すれば「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」が科せられます。
犯人蔵匿罪・犯人隠避罪の量刑は、逃走犯の犯した犯罪や社会的反響の大きさと、蔵匿期間等の犯行形態によって左右されますが、初犯であっても実刑判決の考えられる犯罪です。
また、逃走した犯人の親族については、刑を免れる可能性があります。
◇教唆犯◇
刑法第61条
1 人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。
2 教唆者を教唆した者についても、前項と同様とする。 (刑法から引用)
~教唆犯の意義~
犯罪の意思がない者をそそのかし、犯罪を実行することを決意させて実行させた者を教唆犯といいます。
教唆犯が成立するには、まず教唆行為が必要となります。
教唆の方法には制限がありません。また、その内容については、具体的に指示する必要までありませんが、ある程度の内容を被教唆者に伝えることを必要とし、教唆行為によって被教唆者が、犯罪を実行することを認識・認容していなければなりません。
今回の事件では、Aさんは、スピード違反をした自身の身代わりとなって警察署に出頭するように、友人に対して、犯人隠避罪に当たる行為を教唆しているので、Aさんは、犯人隠避罪の教唆犯となるでしょう。
教唆犯は、正犯の刑が科せられるので、もしAさんが、犯人隠避罪の教唆犯として起訴されて有罪が確定した場合は、犯人隠避罪の法定刑である「3年以下の懲役又は30万円以下の罰金」が適用されます。
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